現在テネシー工科大学音楽学部の作曲科主任で、これまでABAオストワルド作曲賞を3度受賞するなど、吹奏楽界に燦然と輝く作者が、そのキャリアをスタートしたばかりの20代前半、1962~63年にかけて作曲した作品です(秋山紀夫氏の解説による。作曲者自身のHPでは1965年作曲となっている)。「吹奏楽のための高貴なる楽章」と訳されることもあるタイトルの通り、格調高くロマンティックな旋律を持っているとともに、その後の作曲者の活躍を予感させるような作曲上のさまざまなアイディアが詰まった作品でもあります。
曲は、Andante fieramente(歩く速さで、熱烈に)の指示で始まる6小節間の序奏から始まります。ここでいきなり格調高く提示された主題は、その後のAllegro con brio(快速に、活気をもって)において、クラリネットから各楽器のソロ、そして金管中低音部の強奏へと受け継がれ、さらにフーガ的に展開深化していきます。しかし、その盛り上がりの頂点で、場面は一転してAndanteの中間部へ。この部分は清らかでロマンティックな旋律・対旋律が折り重なるようにあらわれ、人間の内面の美しさを情感豊かに歌い上げるかのようです。しかし、その歌が感動的な“絶唱”に達したところで、余韻を断ち切るかのように非情にも再びテンポはもとのAllegroに戻り、主題をコンパクトに再現し、そのまま一気に終末まで駆け抜けます。
この曲は、ちょうどその頃婚約中だった彼の妻のルシルに捧げられています。とくに中間部Andanteの旋律は、彼女がもっとも好んでいる旋律だと言われていますが、このような名旋律が婚約者に捧げるために生み出されたものであると考えると、納得させられます。日本でも大変な人気を博した曲で、吹奏楽曲としては異例のシングル盤のレコードが発売されたこともありました。
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